偶然の幼子におもう

公共施設の入口で母が身をかがめ、幼子に何かを諭す場面に遭遇しました。
二歳に満たないであろう幼子(以下、彼とします)は母を振り切り、足もとのスロープをぱたぱたと下りはじめたのです。
嬉々として下りては上りを繰り返すその姿に、すでに母は腹をくくったようです。

どれくらいの時間が経過したでしょうか、
唐突に踵を返した彼は、何事もなかったように母の手をとって帰路についたのです。

スロープの何が彼を惹きつけたのでしょうか?
取り残された私は、わずかの手がかりをもとに思いを巡らしていました。
まずは、諭されていたときの彼の足裏の重心の状態です。
ときどきつま先が浮き上がることから、立位では重心が動揺し踵に乗りやすいようです。
彼にとって、安定した歩行、そして走ることを獲得する上で、克服していかなければならない課題となるものです。

偶然踏み入れたスロープは、彼をして踵から足先への重心移動を体感させたのではないだろうか。
「よし、この感覚だ」の声が彼の表情に読みとれたように感じます。
ほとんど無自覚的で、本能的といってもいい、走ることへの渇望がスロープでの一連の行動に向かわせたのではないでしょうか。

彼の走る足音にどのような変化があらわれるのか、楽しい妄想がつきない散歩となりました。

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